オタクと焼肉とカレーの話

焼肉ライクが好きだ。

 

焼肉ライクは一人焼肉特化店みたいな感じで、セットを頼むと焼肉で欲しいものが一気に出てきて楽なのが良い。

 

セットにちょこっと付いてるキムチをいつ食べるか、スープをいつ飲むか。そんな戦略を立ててる時が楽しい。

火力が強くてちょっと焦げ付いたカルビをニンニクとコチュジャンの入った濃いタレで米と一緒に口に放り込むと最高だ。

 

最近は大学の用事があるときの帰りにちょこちょこ寄るのを楽しみに生きていた。

 

今日も大学の用事を済ませた後、帰りに寄ることに決めた。駅から向かう途中、今日もいつものカルビセットにしようと心に決めていた。

焼肉ライク初心者の頃は気取って牛タンとかハラミとか頼んだりしていたけど、結局焼肉を欲している時はカルビが食べたいだけだと気がついた。レモン汁で心は満たされない。

 

そんなことを考えているうちにお店に着く。すぐ席を案内され、手を拭きいつも通りタッチパネルで注文を行う。

 

幾度となく繰り返してきた完全なルーティーン。今回も万が一にも失敗はないはずだった。

 

だが今日は一ついつもと違った。セットを頼んだ後のトッピング画面。いつもならトッピング無しを即座にタップするところだが、今日は一つのメニューに目が止まった。

 

焼肉屋のちょい足しカレー 180円」

 

焼肉屋でカレー…?焼肉とはタレをつけた肉を米にバウンドさせる競技ではなかったのか。

 

でも確かに焼肉屋のカレーというのもちょっと気になるなぁ。普段ならこのくらいで注文はしなかっただろう。

それもそのはず、カルビセットは米がやたら進むので大盛りでも肉との配分に気を使わなければならない。カレーの入る隙間などはないのだ。

 

だが、イレギュラーは二度起こる。入り口で見かけたキャンペーン。

 

「平日17時までライスおかわり自由!」

 

私はカレートッピングのボタンを押していた。

 

程なくしてセットのプレートが届く。焼肉ライクは注文から到着がやたら早いのも好きだ。いつもの見慣れた顔ぶれの中に見慣れない銀と茶色の主張。焼肉セットではない、焼肉カレーセットだと言わんばかりにそこに佇んでいた。

 

ロースターに火を付けカルビを数枚セットした後、カレーをライスにかけ口に運んでみる。うまい。カレー欲を満たしたい時はこれ!といった感じの味がする。滑り出しは好調。イレギュラーはありつつも今回の焼肉もつつがなく終えられそうに思えた。

 

 

ここからカレーの猛攻が始まる。

 

 

まずカレーによってタレバウンドが封じられた。絶妙なバランスで成り立っていた肉、タレ、米のトリオがめちゃくちゃ我の強いカレーの登場で崩壊した。流石に濃すぎる。やたらお冷やが減っていった。

 

崩壊したバランスを立て直すために秘策を思いつく。4種あるから味が濃いのであって、タレをなくしてしまえば肉、カレー、米で新たな関係が築けるのではないか。

 

そう思い、コンロから直接肉をカレー&米に放り込んで食べる。口に入れた瞬間、気がついた。

 

完全にカレーライスである。

 

さっきまでメインを張っていたカルビがカレーの具に成り果てた。ちょっと豪華なカレーである。焼肉屋に来たのにカレーを食べる羽目になっている。

 

このままでは180円のカレーにこの場を支配される。カレーの独裁を危惧した私は最終手段に出る。そう、隔離だ。

 

タッチパネルからおかわりライスを注文する。サイズは中。流石焼肉ライク、即座におかわりライスが到着した。

 

今、私の卓にはカレーに支配されたライスとおかわりライスの二碗がある。カレールーの残りはあと3分の1。わたしはおかわりライスの方からカレー碗の方に一部米を移し、ルーを使い切った。

 

これによってカレーライスとカレーの支配を受けていないまっさらな米の分離に成功した。支配からの脱却である。カレーライスを平らげた後、焼いた肉をタレにつけ真っ白な米にバウンドさせ食べる。これだ、これが食べたくて焼肉屋に来たんだ。私は静かに頷いていた。カレーの時代は終わった。そう思えた。

 

カレーの後遺症、シンプルに食べ過ぎた。流石に大盛りと中盛りの米に肉とカレーは多過ぎた。胃がもたれてる。部活後の中学生みたいな量食べちゃった。

 

カレーの野望は今も私の腹中を蠢いている。

 

終わり。